大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和47年(ワ)10613号 判決

原告 広瀬旦視

被告 荻窪雅幸

主文

一  被告は原告に対し、鹿野山カントリークラブの個人正会員権(会員証番号第〇六一〇号)の名義を原告名義に変更する手続をせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  被告は昭和四一、二年頃 訴外中根某に対し、借入金担保のため被告所有名義の小川カントリークラブ、鹿沼カントリークラブ及び本件鹿野山カントリークラブ(個人正会員、会員証番号〇六一〇号)の各ゴルフ会員権を譲渡した。その後中根は右ゴルフ会員権を訴外岡安正に譲渡した。岡安は昭和四五年五月末頃、右ゴルフ会員権を担保に訴外千代田証券投資株式会社(以下千代田証券という)より手形三通合計額面金三〇〇万円を裏書譲渡して手形割引を受けたが、昭和四六年二月二日手形不渡りにより右手形金の代物弁済として千代田証券がこれを取得した。原告は同年二月二二日、千代田証券より本件鹿野山カントリークラブの会員権を代金二六万円で買受け、裏書欄に被告譲渡印のある被告名義の本件ゴルフ会員証及び被告作成の譲受人白地の会員証名義書換請求書一通の交付を受けてこれを取得した。

(二)  仮に右事実が認められないとしても、原告が千代田証券より本件会員権を譲り受けた当時、証券の裏書欄に譲渡印のあるゴルフ会員証と譲渡人の押印のある名義書換請求書をもつてゴルフ会員権が輾転流通し、証券的債権として取引される商慣習が存在した。その後最近になつてゴルフ会員権の名義書換につき譲渡人の印鑑証明書の添付を必要とする取扱になつたものである。従つて、原告は千代田証券から前記書類の交付を受けて本件ゴルフ会員権を譲受け、これを善意取得したものである。

(三)  よつて、本件ゴルフ会員権は原告に帰属するので、原告は被告に対し、右会員権につき原告名義に変更する手続を求める。

二  被告の答弁

(一)  請求原因(一)のうち、本件ゴルフクラブの会員権が千代田証券から原告へ譲渡されたことは認めるが、その余は不知。被告が本件会員証等に譲渡印を押捺してゴルフ会員権を譲渡したとの点は否認する。

(二)  同(二)は否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

一  原告が訴外千代田証券投資株式会社より被告所有名義の本件鹿野山カントリークラブのゴルフ会員権を譲り受けたことは当事者間に争いがない。しかして、成立に争いのない甲第一号証の一、被告本人の供述により成立を認めうる甲第一号証の二(但し、印影部分が被告の印鑑により顕出されたものであることは当事者間に争いがない)、印影部分が被告の印鑑により顕出されたものであることは当事者間に争いがないので全部真正に成立したものと推認すべき甲第二号証(但し、被告の住所、氏名の記載部分を除く)、証人鈴木里旨の証言及び右証言により成立を認めうる甲第三ないし第六号証の各一、二に原被告各本人の供述及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

被告は、昭和四一、二年頃、訴外中根某より金六〇万円を借受け、右借受金担保のため被告所有名義の鹿沼カントリークラブ、小川カントリークラブ及び本件鹿野山カントリークラブの三つのゴルフ会員権を譲渡し、右譲渡のため各会員証の裏書欄に被告の実印を押捺したうえ取得者欄空欄のままゴルフ会員証を差入れた。その後被告は右債務の弁済ができなかつたため会員権を売却処分してこれに充当するため、鹿沼カントリークラブの会員名義書換に必要な白紙委任状に印鑑を押捺して中根に交付した。その頃、小川カントリークラブ、本件鹿野山カントリークラブの会員権についても会員証の返還を求めることなく、各ゴルフクラブ備付の会員証名義書換請求書に被告の実印を押捺し、譲受人欄白地のままこれを同人に交付した。その後小川カントリークラブ及び本件鹿野山カントリークラブのゴルフ会員権については、右中根より訴外岡安正が譲り受けた。岡安は昭和四五年五月末頃、訴外千代田証券に右ゴルフ会員権を担保のうえ訴外昭和ハウジング株式会社振出、岡安正裏書の額面金一〇〇万円の約束手形三通の手形割引を受け、右手形不渡りのときは右会員権を第三者に売却して手形元利金に充当することを特約した。ところが右手形はいずれも不渡りとなつたので、千代田証券は岡安に対し、昭和四六年二月二日到達の書面により右会員権を他に売却して損害金に充当する旨代物弁済完結の意思表示をした。しかして、原告は同年二月末頃、千代田証券より被告所有名義の小川カントリークラブ及び本件鹿野山カントリークラブの会員権を代金五五万円で買受け、千代田証券より右会員証及び名義書換請求書の交付を受けたうえ、その頃小川カントリークラブの会員権については原告において未納の年会費を納付のうえ他へ売却し、名義書換も完了したが被告より何ら異議の申出がなかつた。被告は本件会員証を譲渡した後は、鹿野山カントリークラブに対して会員証の再発行を申請したり、被告自身鹿野山ゴルフ場でゴルフプレーしたことはなかつた。原告はその後前記名義書換請求書(甲第二号証)に被告の住所氏名の記載を補充し、会員証を添付して鹿野山カントリークラブに名義書換を請求しようとしたところ、右クラブの取扱が変り、書換に必要な書類として被告の印鑑証明書の添付を要する旨告げられたので、原告名義に書換手続ができなかつた。

以上の事実が認められ、被告本人の供述中右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らしてにわかに措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠は存しない。

してみると、被告は、昭和四一、二年頃、訴外中根に対し借受金の譲渡担保として、本件ゴルフ会員証の裏書欄に自己の実印を押捺し、会員証名義書類請求書にも譲渡人が押捺すべき箇所に実印を押捺し、取得者欄及び譲受人欄白地のままこれを差入れ、右債務不履行のときは会員権が換価処分され輾転譲渡することを予め承諾していたものとみるべきところ、他に特段の事実を認めるべき証拠のない以上、本件ゴルフ会員権は、右譲渡に必要な書類とともに被告から中根某、岡安正、千代田証券を経由して原告が適法に譲り受け取得したものというべきである。

二  ところで、一般にゴルフクラブの会員権が財産的価値を有し、譲渡の対象とされ売買取引されていることは当裁判所に顕著な事実であるところ、証人佐藤貞治の証言及び右証言により成立を認めうる甲第八号証(鹿野山カントリークラブ会則)を併せ考えると、本件鹿野山カントリークラブは訴外房総開発株式会社が所有し経営している預託金会員制のゴルフクラブであり、会員は入会金として一定の金額を預り金として支払い本件会員証及び預り証の交付を受けて会員資格を取得し、所定の年会費を支払つたうえ何時でもゴルフコース及び付属施設を利用してゴルフプレーをすることができること、退会の際は本件会員証及び退会届を提出し、一定の据置期間経過後理事会の承認を得て右預り金の返還を求めることができること、また会員は会員権を他へ自由に譲渡することができ、譲受人は所定の書換手数料を支払つて名義書換ができること、本件ゴルフクラブでは名義書換に必要な書類として、名義書換請求書に会員証、譲渡人の印鑑証明書及び譲受人の住民票抄本の提出を求め、未納の年会費を完納させ、書換手数料を徴収のうえ理事会の承認を得て名義書換に応じているが、右理事会の承認は書類上の審査に止まり理事長が会員証に承認印を押捺してなされること、なお、昭和四五年末頃から名義書換につき譲渡人の印鑑証明書の添付を必要とする取扱に変更されたことが認められる。

右認定の事実関係よりすると、本件ゴルフ会員権は、鹿野山カントリークラブを経営する房総開発株式会社と会員との間における右のような施設利用権、預託金返還請求権及び年会費支払義務等を包括する契約関係であり、右契約上の地位は自由に譲渡することができること、被告が本件会員権を譲渡した当時は、譲渡人の捺印がある会員証及び名義書換請求書があれば足りたが、その後昭和四五年末頃から鹿野山カントリークラブの取扱が変つて右書類のほか譲渡人の印鑑証明書の添付を必要とするようになつたこと、原告は右取扱の変更を知らずに昭和四六年二月末頃、前記書類を譲り受け会員権を正当に取得したものというべきである。しかして前記認定のとおり、被告が昭和四一、二年頃、本件会員証及び名義書換請求書に捺印のうえ取得者及び譲受人欄白地のまま、これを中根に交付してゴルフ会員権を譲渡した以上、将来正当に右書類を取得する原告を含むすべての者に対して名義書換手続をすることを承諾していたものと推認することができるから、被告は原告に対し、本件ゴルフ会員権につき原告所有名義に書換手続をなすべき義務があるものといわざるを得ない。

三  よつて、原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 土田勇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例